レッドチーミングとは、攻撃者の視点からAIシステムをテストする取り組みです。弱点や想定外の危険な挙動を意図的に探します。
例えば、生成AIに通常とは異なる指示を与え、安全対策を回避できないか調べます。また、外部データに悪意ある指示が含まれた場合の誤作動も確認します。
目的はAIを攻撃することそのものではありません。問題を実際の利用前または運用中に発見し、安全対策の改善につなげることが重要です。
この記事では、レッドチーミングの意味と仕組みを解説します。さらに、生成AIでの具体例や使い方、注意点も初心者向けに紹介します。
レッドチーミングとは
レッドチーミングは、あえて厳しい条件でシステムを試す評価方法です。攻撃者に近い視点を取り入れ、通常のテストでは見落としやすい問題を探します。
この考え方は、もともとセキュリティ分野などで使われてきました。現在では、AIや生成AIの安全性評価にも活用されています。

AIにおけるレッドチーミングの意味
AIのレッドチーミングでは、モデルが正しい回答を出せるかだけを見るわけではありません。
例えば、危険な指示に従わないかを確認します。また、機密情報を出力しないか、安全対策を回避されないかも意図的に調べます。
対象はAIモデルだけとは限りません。生成AIサービスでは、入力フィルター、外部ツール、検索機能、RAG、監視機能などを組み合わせていることがあります。そのため、システム全体を対象にした検証が必要になる場合もあります。
通常のテストとの違い
一般的な性能評価では、質問に正しく答えられるかを確認します。さらに、精度や処理速度など、想定された利用方法を中心に調べます。
一方、レッドチーミングでは、想定外の使い方や悪意ある操作を含めて試す点が特徴です。
通常のテストで問題なく動くAIでも、巧妙な指示で安全ルールを回避する可能性があります。また、外部の文章に含まれる命令へ従う場合もあります。
そのような「普通に使っているだけでは見えにくい弱点」を探すのがレッドチーミングです。
レッドチーミングの仕組み
レッドチーミングは、思いついた攻撃を無作為に試す方法ではありません。対象と利用場面を整理し、リスクを想定して検証と改善を繰り返します。

基本の流れは、対象とリスクの決定、シナリオ作成、テスト、記録と対策、再テストです。この順番で捉えると分かりやすいでしょう。
1. 対象とリスクを決める
まず、何をテストするのか明確にします。
対象がチャット型生成AIか、社内文書を検索するRAGかを確認します。外部ツールを操作するAIエージェントでは、考えるべきリスクがさらに異なります。
同時に、守る必要がある情報や、問題が起きたときの影響も整理します。
2. 攻撃・リスクシナリオを考える
次に、「どのような問題が起こり得るか」を具体化します。
例えば社内文書を検索できる生成AIなら、権限のない情報を回答してしまうケースや、取得した文書に埋め込まれた悪意ある命令へ従ってしまうケースなどが考えられます。
実際の利用環境を意識したシナリオを作ることが重要です。
3. 実際にAIをテストする
作成したシナリオに基づき、AIへさまざまな入力を与えて反応を確認します。
単純な指示だけでなく、表現を変えたり、複数回に分けて誘導したり、外部データを経由させたりすることで、対策を回避できないか調べる場合があります。
ただし、レッドチーミングは必ず権限を持つシステムや許可されたテスト環境で行う必要があります。
4. 問題を記録して対策する
問題が見つかったら、「成功した・失敗した」だけで終わらせません。
どの条件で問題が起きたのか、どの程度の影響があるのか、どの対策が必要なのかを整理します。
対策としては、モデル側の調整だけでなく、入力・出力フィルター、アクセス権限、監視、システム構成などを変更することもあります。
5. 対策後に再テストする
修正した後は、同じ問題が本当に防げるようになったか再度確認します。
さらに、対策によって通常の利用まで過剰に制限していないかも確認する必要があります。
つまり、レッドチーミングは一度実施して終了する作業ではなく、発見・改善・再評価を繰り返す活動と考えると分かりやすいでしょう。
生成AIのレッドチーミングでは何を調べる?
生成AIには、従来のソフトウェアとは異なる問題が発生することがあります。そのため、レッドチーミングでも複数の観点から検証します。

代表的な対象には、次のようなものがあります。
| 確認するリスク | 概要 |
|---|---|
| 有害・危険な出力 | 本来制限すべき危険な情報を生成しないか |
| ジェイルブレイク | 安全対策を回避する指示に従わないか |
| プロンプトインジェクション | 外部から混入した悪意ある指示で動作を変えられないか |
| 情報漏えい | 個人情報や機密情報などを不適切に出力しないか |
| 誤情報 | 事実と異なる情報をもっともらしく生成しないか |
| 偏り | 特定の属性などに対して不適切な偏りが出ないか |
| ツールの誤操作 | AIエージェントが意図しない操作を実行しないか |
実際に何を調べるべきかは、AIの用途によって変わります。
例えば文章作成だけを行うAIと、メールやファイル、外部サービスへアクセスできるAIエージェントでは、問題が起きたときの影響が大きく異なります。
そのため、サービスごとにリスクを考える必要があります。
レッドチーミングにはどのような方法がある?
AIのレッドチーミングには、人が行う方法だけでなく、AIを利用して自動化する方法もあります。
内部レッドチーミングでは、開発企業や組織内の担当者がテストします。システムの構造を理解しているため、技術的に深い検証を行いやすい点が特徴です。
外部レッドチーミングでは、外部の専門家や異なる分野の有識者が参加します。開発者とは異なる視点から問題を探せるため、社内だけでは気付きにくいリスクを発見できる可能性があります。
さらに、近年は自動レッドチーミングも利用されています。AIに多数の攻撃パターンを生成させ、別のAIの弱点を効率的に探す方法です。
例えばOpenAIは2026年7月、プロンプトインジェクションなどの弱点を自動的に探す「GPT-Red」の研究成果を公表しています。
ただし、自動化だけですべての問題を発見できるわけではありません。文化的背景や専門分野特有の危険性など、人による判断が重要な領域もあります。
レッドチーミングを使うメリット
大きなメリットは、通常のテストでは想定していなかった弱点を公開・本格運用前に発見できる可能性があることです。
問題が見つかれば、フィルターや権限管理、モデルの調整、監視体制などを改善できます。その結果、ユーザーが問題へ遭遇する前に対策できる可能性があります。
また、見つかった問題を新しい評価項目として蓄積することもできます。
例えばレッドチーミングで特定の失敗パターンが発見された場合、その事例を継続的なEvalsやテストケースへ追加すれば、モデルやシステムを更新した際にも同じ問題が再発していないか確認できます。
このように、レッドチーミングは単に「弱点を見つける作業」ではなく、継続的な安全性評価を改善するきっかけにもなります。
レッドチーミングの注意点と限界
レッドチーミングを行えば、AIが完全に安全になるわけではありません。
どれだけ多くのテストを実施しても、すべての使い方や攻撃方法を事前に再現することは困難です。また、見つからなかった問題が「存在しない」とは限りません。
さらに、結果はレッドチームの知識や経験、テスト範囲にも左右されます。そのため、技術者だけでなく、必要に応じて法律、医療、セキュリティなど対象分野の専門家を参加させることも重要です。
レッドチーミングだけでリスクの発生確率や重大性を正確に測定できるとも限りません。通常の評価、監視、アクセス制御、人による確認など、ほかの安全対策と組み合わせる必要があります。
そして、実際の攻撃手法を扱う場合は、第三者のシステムへ無断で試してはいけません。自組織が管理する環境や、明確に許可を得た対象だけで実施することが基本です。
レッドチーミングに関するFAQ
レッドチーミングと普通のセキュリティテストは何が違いますか?
一般的なテストが既知の要件や脆弱性を確認するのに対し、レッドチーミングでは攻撃者や想定外の利用者の視点から、まだ把握できていない問題まで探索することを重視します。
AIではシステムの脆弱性だけでなく、有害な出力や誤情報、偏り、安全対策の回避なども対象になることがあります。
レッドチーミングとジェイルブレイクは同じですか?
同じではありません。
ジェイルブレイクは、生成AIに設定された安全制限を回避しようとする手法や試みを指します。一方、レッドチーミングはAIシステム全体の問題を探す評価活動です。
ジェイルブレイクは、レッドチーミングで利用されるテスト方法の一つになる場合があります。
レッドチーミングはAIの公開前だけ行えばよいですか?
公開前だけとは限りません。
AIモデルやシステムは更新されるため、新しい機能や外部ツールを追加すると、それまで存在しなかったリスクが生まれる可能性があります。
そのため、公開前に加えて、大きな変更を行ったときや新たなリスクが判明したときにも再評価することが重要です。
AIを使ってレッドチーミングを自動化できますか?
できます。
AIを使って多数の攻撃パターンを作成し、対象AIの回答を自動的に評価する方法が研究・利用されています。
一方で、人間にしか判断しにくい文脈や社会的影響もあるため、自動評価と専門家による確認を組み合わせることが重要です。
まとめ
レッドチーミングとは、攻撃者の視点を取り入れたテストによって、AIシステムの弱点や想定外の危険な挙動を見つけ、改善につなげる取り組みです。
生成AIでは、ジェイルブレイクやプロンプトインジェクション、情報漏えい、有害な回答、外部ツールの誤操作など、さまざまなリスクを検証します。
重要なのは、一度テストして「安全」と判断して終わることではありません。見つかった問題を修正し、再テストや通常の評価、運用中の監視と組み合わせながら安全性を高めていく必要があります。
AIがより多くの業務やサービスで使われるほど、問題が起きてから対応するだけでなく、攻撃者の視点から事前に弱点を探すレッドチーミングの重要性も高まります。
関連用語
出典・参考情報
AIセーフティ・インスティテュート「AIセーフティに関するレッドチーミング手法ガイド」
NIST Computer Security Resource Center「red teaming – Glossary」
OpenAI「Response to NIST Executive Order on AI」
