合成データは、コンピューターで人工的に作られたデータです。現実世界のデータの特徴やパターンを参考にします。
記録された人物や出来事をそのまま並べるものではありません。統計的な分布やデータ同士の関係を再現し、新しいデータを生成します。
AI・機械学習の学習データを増やしたいときに活用されます。また、実データを集めにくい場面や、個人情報の利用リスクを抑えたい場面でも役立ちます。
この記事では、合成データの意味や仕組み、種類を解説します。具体的な使い方やメリット、注意点も初心者向けに紹介します。
合成データとは?
合成データは、簡単にいうと**「本物のデータに似た特徴を持つよう人工的に作ったデータ」**です。
たとえば、ある店舗の顧客データに「年齢」「購入金額」「購入回数」という項目があるとします。
実際の顧客情報をそのまま使わない方法があります。年齢層や購入金額の分布、項目同士の関係を参考に、実在しない顧客データを生成します。
NISTは、元になるデータを利用する処理として合成データ生成を定義しています。その統計的特徴の一部を持つ人工データを作る処理です。

合成データを簡単にいうと
実データと合成データの違いを単純化すると、次のようになります。
| 種類 | イメージ |
|---|---|
| 実データ | 実際の人物・機器・取引・出来事などから得たデータ |
| 合成データ | 実データなどの特徴を参考に人工的に作った新しいデータ |
たとえば、自動車のカメラで実際に撮影した道路画像は実データです。
一方、シミュレーションで雨天や夜間、歩行者の飛び出しなどを再現できます。そこで作った画像は、合成データとしてAIの学習や検証に利用できます。
匿名化データとの違い
合成データと匿名化されたデータは似ていますが、同じものではありません。
匿名化では、実際に取得したデータを基に、個人を特定しにくくするための加工を行います。
一方、合成データでは、元データの特徴をモデルなどで捉えたうえで、人工的な新しいデータを生成します。
ただし、「合成データだから必ず匿名で安全」とは限りません。
元データの情報が推測できる状態になっていないかなど、生成方法や利用目的に応じたプライバシー評価が必要です。
合成データはどのような仕組みで作られる?
合成データの作り方は用途によって異なります。基本はデータの特徴を把握し、それに近い新しいデータを生成する流れです。
1. 元となるデータや条件を用意する
最初に、生成したいデータの基準を用意します。
実際に収集したデータを使う場合もあれば、シミュレーション上で条件を設定する場合もあります。
たとえば画像なら、物体の種類、背景、明るさ、角度、天候などを条件として設定できます。
2. 特徴やパターンをモデルが学ぶ
実データを利用する方法では、数値の分布や項目同士の関連などを統計モデルや機械学習モデルで捉えます。
画像などの複雑なデータでは、GAN(敵対的生成ネットワーク)などの生成モデルが利用されることもあります。
GANでは、データを作るモデルと本物らしさを判定するモデルを使います。両者を競わせながら学習し、現実に近いデータを生成します。
3. 新しい人工データを生成する
学習した特徴や設定した条件を基に、新しいデータを作ります。
重要なのは、元のデータを単純にコピーすることではなく、特徴や傾向を反映した別のデータを作ることです。
4. 品質とプライバシーを評価する
生成できれば終わりではありません。
実データの特徴を十分に再現できているかを確認します。さらに、AIの学習やテストへの有用性、機密情報を推測できないかも確認します。
つまり、合成データでは本物に近いという有用性が大切です。同時に、安全に利用できるかという観点も重要です。

合成データにはどのような種類がある?
合成データは、大きく完全合成データと部分合成データに分けて説明されることがあります。
完全合成データ
完全合成データは、データセット内の値を人工的に生成する方法です。
元となるデータの統計的な特徴などを参考にしながら、新しいレコードを作ります。
実在する人物や取引の記録を、そのままデータセットへ残さない形を目指せる点が特徴です。
部分合成データ
部分合成データでは、実データの一部を残し、特定の項目だけを人工データへ置き換えます。
たとえば、分析に必要な項目を維持しながら、場所や日時など一部の情報を合成値にする方法が考えられます。
どちらが適しているかは、利用目的や必要な精度、プライバシー要件によって異なります。
合成データは何に使う?
合成データは、AI開発だけでなく、テストや研究など幅広い用途で利用できます。
AI・機械学習の学習データ
代表的な用途が、AIや機械学習モデルの学習です。
高性能なAIを作るには、多様な学習データが必要になる場合があります。しかし、必要なデータを実世界ですべて収集できるとは限りません。
そこで、実データを補うために合成データを追加する方法があります。
特に、実際にはめったに発生しないケースを意図的に作れる点がメリットです。
ソフトウェアのテスト
システムやアプリケーションの開発でも利用できます。
実際の顧客情報を開発環境へ持ち込まずに済む方法があります。実データと似たテスト用データを用意すれば、安全性に配慮して動作確認を進められます。
入手しにくいデータの補完
現実世界では集めにくい条件のデータを作る目的でも利用されます。
たとえば自動運転では、大雨や夜間、特殊な交通状況など、多様な条件をすべて実車で収集するには時間や費用がかかります。
シミュレーションなどを使えば、条件を変えながら人工的なデータを作成できます。
個人情報を含むデータの代替
医療、金融、行政などでは、データに個人情報や機密情報が含まれる場合があります。
そのため、必要以上に実データを共有しない方法の一つとして合成データが検討されます。
ただし、合成データそのものが自動的に匿名データになるわけではありません。元データとの関係や再識別・推測のリスクを評価する必要があります。

合成データを使うメリット
合成データには主に次のようなメリットがあります。
- 不足するデータを補える
実世界で十分なデータが集まらない場合に、追加の学習・テストデータを生成できます。 - 珍しいケースを意図的に作れる
発生頻度が低い状況を再現し、AIの学習や検証に利用できます。 - データ収集やラベル付けの負担を軽減できる場合がある
シミュレーションでは、生成時点で対象物の位置や種類などの情報を取得できるケースがあります。 - 実データの利用を減らせる場合がある
個人情報や機密情報を直接使う範囲を減らす手段として活用できます。
一方で、合成データは実データの完全な代替になるとは限りません。目的に応じて実データと組み合わせることが大切です。
合成データの注意点・デメリット
便利な合成データですが、利用時にはいくつか注意点があります。
元データの偏りを引き継ぐ可能性がある
元データに偏りがあれば、その特徴を学習した生成モデルも偏ったデータを作る可能性があります。
合成しただけでデータの公平性が自動的に改善されるわけではありません。
現実世界を完全には再現できない
現実には、予想しにくい例外や複雑な条件があります。
合成データが現実を単純化しすぎていると、そのデータだけで学習したAIが実環境で十分な性能を発揮できない可能性があります。
品質評価が必要
大量のデータを生成できても、役に立たなければ意味がありません。
実データと統計的な特徴が近いか、目的とするAIの性能向上につながるかなどを検証する必要があります。
プライバシーが自動的に保証されるわけではない
合成データはプライバシー保護に役立つ可能性がありますが、生成方法によっては元データについて情報を推測できるリスクが残る場合があります。
そのため、個人情報を扱う用途では「合成したから安全」と判断せず、適切なリスク評価が必要です。
合成データを使うときの基本的な進め方
初心者が合成データの利用方法を理解するときは、次の順番で考えると整理しやすくなります。
- 何のためのデータかを決める
AI学習、テスト、研究、プライバシー保護など、利用目的を明確にします。 - 必要な特徴を決める
元データのどの特徴や関係を再現する必要があるのか整理します。 - 生成方法を選ぶ
統計的な方法、シミュレーション、機械学習モデル、生成モデルなどから目的に合う方法を選びます。 - 合成データを生成する
必要な件数や条件に合わせてデータを作ります。 - 品質を検証する
実データとの違いや、AI・分析で期待する結果が得られるか確認します。 - プライバシーや偏りを確認する
個人情報の推測リスクやデータの偏りが残っていないか評価します。
重要なのは、合成データを作る技術だけではありません。作ったデータが目的に使えるかを評価する工程まで含めて考えます。
合成データについてよくある質問
合成データは偽物のデータという意味ですか?
人工的に作られたデータという意味では実際の観測データではありません。
ただし、単に適当な数字を並べたデータではなく、目的に応じて実データの統計的特徴や構造などを再現するよう作られます。
合成データは生成AIで作るのですか?
生成AIや生成モデルを使う方法もありますが、それだけではありません。
統計的な分布、シミュレーション、機械学習モデル、GANなど、さまざまな方法で生成できます。
そのため、「合成データ=生成AIが作ったデータ」と限定するのは正確ではありません。
合成データなら個人情報を気にしなくてよいですか?
必ずしもそうではありません。
生成方法や元データとの関係によっては、個人に関する情報を推測できるリスクが残る可能性があります。
個人情報を扱う場合は、合成データであることだけを理由に安全と判断せず、利用目的や生成方法に応じた評価が必要です。
合成データだけでAIを学習できますか?
用途によっては利用できますが、実データとの組み合わせが適している場合もあります。
合成データが現実の条件を十分に再現できているか確認し、実環境での評価も行うことが重要です。
まとめ
合成データとは、現実のデータの特徴やパターンを参考にして人工的に生成するデータです。
AI・機械学習の学習データの補完、ソフトウェアテスト、入手しにくいデータの生成、実データの利用を減らす方法などとして活用できます。
一方、元データの偏りを引き継いだり、現実世界を十分に再現できなかったりする可能性があります。また、合成しただけでプライバシーが保証されるわけでもありません。
そのため、合成データを使うときは、生成することだけでなく、品質・有用性・偏り・プライバシーを評価することまで含めて考えることが重要です。
関連用語
出典・参考情報
- NIST「synthetic data generation – Glossary」(確認日:2026年8月22日)
- NIST「SP 800-188, De-Identifying Government Datasets: Techniques and Governance」(確認日:2026年8月22日)
- AWS「合成データとは何か? – 合成データの説明」(確認日:2026年8月22日)
- ICO「Glossary」(確認日:2026年8月22日)
- Google for Developers「The Generator」(確認日:2026年8月22日)
- NVIDIA「What is Synthetic Data Generation (SDG)?」(確認日:2026年8月22日)
