ベクトルとは?意味・仕組み・使い方を初心者向けにわかりやすく解説

ベクトルとは、AIの分野では文章や画像などの特徴を、コンピューターが扱いやすい数値の並びとして表すために使われる考え方です。

「ベクトル」と聞くと数学の難しい計算を想像するかもしれません。しかし、生成AIを利用するだけなら、複雑な数式を覚える必要はありません。

まずは、データを数字に置き換える方法と考えましょう。似ているもの同士の比較に使われます。

生成AIでは「埋め込み(Embedding)」と深く関係します。意味の近い情報を探す検索にも使われます。Googleの公式資料では、埋め込みをデータの数値表現と説明しています。近い位置のデータほど似た関係を表せます。

この記事では、基本的な意味とAIでの仕組みを解説します。埋め込みや検索との違い、具体的な使い方も紹介します。

目次

ベクトルとは?

ベクトルは幅広い分野で使われる言葉ですが、生成AIを理解する場合は、複数の数値によって一つのデータや特徴を表すものと考えると理解しやすくなります。

数学では「大きさと向き」を表す考え方

学校数学では、ベクトルを矢印で表すことがあります。

たとえば、

  • 右へどのくらい進むのか
  • 上へどのくらい進むのか

といった情報を組み合わせれば、向きと移動量を表せます。

座標上で「右へ3、上へ2」と進む場合なら、(3, 2)のように複数の数字を並べて表現できます。

AIでも、複数の数値を一つのまとまりとして扱います。基本的な考え方は同じです。

数値の並びとしてAIデータを表す

文章、画像、音声は、そのままでは計算しにくいデータです。AIや機械学習では数値に変換して扱います。

たとえば、ある文章を単純化して、

[0.21, -0.48, 0.73, 0.15]

のような数値の並びで表したとします。

この数値一つひとつを人が読んでも、文章の意味はほとんど分かりません。しかし、コンピューターは複数のベクトルを数学的に比較できます。

Google Cloudも、埋め込みを数値表現への変換と説明しています。テキストや画像などをモデルが処理できる形にします。

ベクトルを数値の並びとして表す基本イメージ

次元とは数値の個数

ベクトルを理解するときによく登場するのが「次元」です。

たとえば、

  • [3, 2]なら2次元
  • [0.3, -0.2, 0.8]なら3次元

というように、初心者向けには「ベクトルを構成している数値の個数」と考えると分かりやすいでしょう。

実際のAIでは、さらに多くの数値を持つ表現も使われます。2次元や3次元に限りません。Googleの機械学習教材でも、埋め込みはn次元の空間でn個の浮動小数点数によって表現されると説明されています。

AIでベクトルが使われる仕組み

AIでは、文章や画像を数値として表します。これにより、コンピューターがデータ同士の近さを比較できます。

文章や画像を埋め込みに変換する

文章の意味や特徴を数値表現へ変換する仕組みがあります。これを「埋め込み(Embedding)」と呼びます。

たとえば、

  • 「犬が公園を走っている」
  • 「ワンちゃんが外を駆け回っている」
  • 「パソコンを買い替えたい」

という3つの文章があったとします。

最初の2つは使われている単語が完全には一致しません。しかし、内容としては比較的近い意味を持っています。

埋め込みでは、データを数値の並びで表します。意味や特徴の関係を扱うためです。Google for Developersでは、埋め込み空間において似た項目が近くに配置され、項目同士の距離が相対的な類似性を表すと説明しています。

似たものをベクトル空間の近くに配置する

複数のベクトルを扱う空間を「ベクトル空間」と呼びます。

イメージとしては、大きな地図の中に文章や画像がそれぞれ配置されている状態です。

似た内容は近くに集まり、異なる内容は離れて配置されると考えると分かりやすいでしょう。

Google Cloudの説明でも、「cat」「dog」「lion」のように意味的な特徴が近い概念は、埋め込み空間でも近くに集まる例が示されています。

ベクトル空間で意味の近いデータを比較する仕組み

ただし、各次元の意味を人が読み取れるとは限りません。「動物らしさ」などと単純には対応しないためです。

各数値を一つずつ解読する必要はありません。位置関係や類似性を利用することが重要です。Googleの機械学習教材でも、実際の埋め込みでは個々の次元の意味を人が解釈することが難しい場合があると説明されています。

距離や角度を使って類似度を調べる

ベクトル同士がどの程度似ているかを調べる方法には、複数の計算方法があります。

代表的なものは次のとおりです。

  • コサイン類似度
  • ユークリッド距離
  • 内積

Google Cloudも、ベクトルデータベースの近傍検索で、コサイン類似度・ユークリッド距離・内積などの指標を利用できると説明しています。

初心者の段階では、計算式を暗記する必要はありません。

「ベクトル同士を数学的に比較すると、似たデータを探せる」と理解しておけば十分です。

埋め込み・検索・データベースとの違い

関連用語を理解するときは、役割を分けましょう。埋め込み、検索、データベースは同じものではありません。

用語簡単な意味主な役割
ベクトル複数の数値をまとめた表現データや特徴を数値として扱う
埋め込み(Embedding)データを関係性を反映したベクトルとして表したもの意味や特徴を数値空間へ写す
ベクトル検索ベクトル同士を比較して近いものを探す方法類似した文章・画像などを探す
ベクトルデータベースベクトルを保存・索引化・検索できる仕組み大量のベクトルを効率よく管理・検索する

Google Cloudでは、ベクトルデータベースを、テキスト・画像・音声などを表すベクトル埋め込みを保存・索引化・検索できるデータベースとして説明しています。

「ベクトル化」が埋め込み生成を指す場合もあります。ただし、数値表現の概念と埋め込みは同じ意味ではありません。

ベクトルは数値表現そのものを含む広い概念で、埋め込みはデータの特徴や関係をベクトル空間で扱えるようにする表現方法と整理すると分かりやすいでしょう。

ベクトルはどのように使う?

一般の生成AI利用者が、何百個もの数字を入力する必要はありません。数値表現はシステム側で作られます。

実際のAIシステムでは、埋め込みモデルが数値表現を生成します。検索システムが比較を行います。

基本的な流れは次のとおりです。

  1. 文章や画像などのデータを用意する
  2. 埋め込みモデルでデータをベクトルへ変換する
  3. 必要に応じてベクトルを保存する
  4. 検索したい質問もベクトルへ変換する
  5. ベクトル同士の近さを比較する
  6. 類似度の高いデータを取得する

Google Cloudのベクトル検索でも、埋め込みを使って対象同士を比較し、意味的な検索やRAGなどへ利用する仕組みが説明されています。

意味の近い文章を検索する

代表的な用途が「意味検索」です。

通常のキーワード検索では、入力した単語と一致する言葉を中心に探す方法があります。

一方、ベクトルを利用した検索では、単語が完全に一致していなくても、意味的に近い情報を候補として探せます。Google Cloudは、ベクトル検索を大規模なセマンティック検索に利用できると説明しています。

たとえば「料金を返してもらえる条件」を検索したときに、「返金規定」「キャンセル時の払い戻し」といった近い意味の文章を探すような使い方が考えられます。

おすすめ候補を探す

ベクトルはレコメンドにも利用できます。

商品やコンテンツなどをベクトルで表し、ユーザーが関心を持っているものと近い候補を探す仕組みです。

Google Cloudの公式資料でも、埋め込みとベクトル検索の用途として、商品代替候補の提案や推薦が挙げられています。

RAGで関連情報を探す

生成AIで特に目にする機会が増えている用途がRAGです。

RAGは、外部の文書やデータベースから関連する情報を検索し、その情報を生成処理へ利用する仕組みです。

その検索部分でベクトル検索を利用する構成があります。

たとえば社内マニュアルを細かく分割し、数値化しておきます。その後、ユーザーから質問を受け取ります。

質問も数値へ変換します。意味的に近い箇所を検索し、関連情報を生成AIへ渡します。Google Cloudでも、RAGにおいてベクトルデータベースがベクトル埋め込みを保存・検索し、関連情報を取得する役割を担う構成が説明されています。

ベクトル検索とRAGで関連情報を取得する流れ

ただし、RAGとベクトル検索は同じものではありません

関連情報を探す方法の一つがベクトル検索です。RAGは検索結果を回答生成へ組み合わせる、より広い仕組みです。

利用するメリット

大きなメリットは、文章や画像を数値として比較できることです。

単語が完全一致しなくても関連情報を探しやすい

文章を意味的な特徴を反映したベクトルへ変換すると、キーワードが完全に一致しないデータ同士も比較できます。

そのため、意味検索や関連情報の発見に活用できます。

文章以外のデータも扱える

ベクトル表現の対象は文章だけではありません。

画像や音声なども数値表現へ変換できるため、扱うモデルやシステムによっては異なる種類のデータについて類似性を調べられます。

大量のデータから似たものを検索できる

ベクトルデータベースでは、近傍検索用の索引などを利用して、大量のベクトルから近い候補を探せます。

大規模な検索では、すべてのベクトルを一件ずつ厳密に比較する代わりに、近似最近傍探索(ANN)を利用する方法もあります。Google Cloudでは、ANNが一部の精度とのトレードオフによって検索速度を高める方法として説明されています。

ベクトルを扱うときの注意点

ベクトルは便利ですが、「数字に変換すれば意味を完全に理解できる」と考えるのは適切ではありません。

近いベクトルだから必ず正しいとは限らない

ベクトル検索で近い結果が見つかっても、その情報が事実として正しいとは限りません。

ベクトル検索が示すのは、利用しているモデルや指標における類似性です。

重要な情報では、検索結果そのものの内容や情報源まで確認する必要があります。

埋め込みモデルによって結果が変わる

どのようなベクトルが生成されるかは、利用する埋め込みモデルやデータなどによって変わります。

また、ベクトル空間の各次元が人間にとって分かりやすい意味を持つとは限りません。

そのため、「数値がこうなっているから必ずこの意味」と単純に解釈しないことが大切です。

検索方法にも目的に応じた選択が必要

ベクトル検索がすべての検索に最適とは限りません。

商品番号、型番、人名、固有名詞など、文字列の正確な一致が重要な場面ではキーワード検索が役立つ場合があります。

Google Cloudでも、意味検索とキーワード検索を組み合わせるハイブリッド検索が用意されています。

つまり、「キーワード検索かベクトル検索か」という二者択一ではなく、目的に合わせて使い分けることが重要です。

ベクトルの理解が役立つ人・深掘りしなくてもよい人

ベクトルの基礎を理解しておくと、生成AIの仕組みに関する多くの用語を理解しやすくなります。

特に役立つのは、次のような人です。

  • RAGの仕組みを理解したい人
  • AIを使った社内検索を学びたい人
  • ベクトルデータベースについて学びたい人
  • AIアプリやチャットボットを開発したい人
  • エンベディングや意味検索を理解したい人

一方、生成AIサービスで文章作成や要約などを行うだけであれば、最初からベクトルの計算式まで覚える必要はありません。

まず「文章などを数値で表し、似たものを数学的に比較できる仕組み」と理解し、必要になった段階で埋め込みや類似度計算へ進むと学びやすいでしょう。

ベクトルに関するよくある質問

ベクトルとは簡単にいうと何ですか?

AI分野では、データの特徴をコンピューターが扱いやすい複数の数値として表すために使われる考え方です。

文章や画像などをベクトルとして表すことで、データ同士の類似性を数学的に比較できます。

ベクトルと埋め込みは同じですか?

完全に同じ意味ではありません。

ベクトルは数値を並べた表現を含む広い概念です。一方、埋め込みは文章や画像などのデータを、特徴や関係性を扱いやすいベクトルとして表現したものです。Google for Developersも、埋め込みを「データのベクトル表現」と説明しています。

ベクトル検索とキーワード検索は何が違いますか?

キーワード検索は文字や単語の一致を利用する方法が中心です。

ベクトル検索では、データを埋め込みへ変換して比較することで、意味的に近い対象を探せます。

用途によっては両方を組み合わせたハイブリッド検索も利用されます。

RAGには必ずベクトルデータベースが必要ですか?

RAGとベクトルデータベースは同じものではないため、「RAG=必ずベクトルデータベース」と考えない方が正確です。

ベクトルデータベースは、RAGで関連情報を効率的に探すためによく利用される選択肢の一つです。Google CloudのRAG Engineでも、ベクトル埋め込みを保存・検索するベクトルデータベースを利用する構成が示されています。

ベクトルを理解するには数学が必要ですか?

生成AIの基本的な仕組みを理解するだけなら、高度な数学から始める必要はありません。

まずは、

「データを数字の並びにする」
「似たデータは近い位置に配置される」
「距離や角度などで似ているかを比較する」

という3点を押さえると、埋め込み・ベクトル検索・RAGとの関係を理解しやすくなります。

まとめ|ベクトルはAIがデータの特徴や類似性を扱うための基礎

ベクトルとは、AI分野では文章や画像などのデータを、コンピューターが計算できる数値の並びとして扱うために使われる考え方です。

特に押さえておきたいポイントは次のとおりです。

  • ベクトルは複数の数値をまとめて扱う
  • AIでは文章や画像などを数値表現へ変換して利用する
  • 埋め込みはデータのベクトル表現
  • 似たデータは埋め込み空間でも近くなるよう表現できる
  • ベクトル検索ではベクトル同士の類似性を使って情報を探す
  • 意味検索、推薦、RAGなどで利用される
  • ベクトルと埋め込み、ベクトル検索、RAGはそれぞれ別の概念

Googleの公式資料でも、埋め込みはデータをベクトルとして表現し、位置や距離を利用して関連性を扱える仕組みとして説明されています。

生成AIを使うだけであれば、最初から複雑な数式を覚える必要はありません。

まずは「AIが文章などの意味や特徴を数字として扱い、似ているものを比較するための土台」と理解しておくと、エンベディング、ベクトル検索、ベクトルデータベース、RAGといった関連用語も理解しやすくなるでしょう。

埋め込み(Embedding)の解説もあわせてご覧ください。

関連用語

出典・参考情報

この記事を書いた人

田中和馬のアバター 田中和馬 株式会社エヌ・ケーパートナーズ/AIスクールガイド|AWL編集長

株式会社エヌ・ケーパートナーズが運営する「AIスクールガイド|AWL」編集長。10年以上にわたり、SEOメディアの立ち上げ・構築・運用に携わってきました。

2024年頃から生成AIを独学で学び始め、その後、生成AIスクールでも体系的に学習。現在はChatGPT、Gemini、Claudeなどを活用し、ディープリサーチによる情報収集、マーケティング企画、記事構成・文書作成、メール作成、業務自動化などに日常的に取り組んでいます。

また、生成AIをWebサイトの企画・制作、コーディング、デザインにも活用。エンジニアやデザイナーの業務領域を理解しながら、自らディレクションを行い、メディアの設計から制作・運用まで一貫して担当しています。生成AIスクール・講座の調査、比較基準の設計、記事編集・品質管理も担当しています。

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